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岐阜家庭裁判所 昭和60年(家)254号 審判 1985年4月11日

申立人 松井久美子

主文

申立人の氏を「ベッカー」に変更することを許可する。

理由

一  本件記録によれば、次の事実が認められる。

(一)  申立人は、昭和二二年四月七日松井定吉と玉枝の長女として出生し、昭和五〇年ころからベッカー・エルヴィン・ハンス(国籍ドイツ連邦共和国、一九四六年八月一四日生、以下単に「ベッカー」という。)と交際するようになり、昭和五六年一二月七日婚姻し、現在に至つている。

(二)  ベッカーは、ドイツ連邦共和国(いわゆる西ドイツ)に本社を置く会社の機械技師として日本滞在約一〇年になるが、いずれ申立人と共に西ドイツで生活する予定でいる。

(三)  申立人は、婚姻後通称として「ベッカー久美子」と称してきたが、戸籍名を使用しなければならないことも多く、日本においても、西ドイツにおいても婚姻の事実を疑われることもままあり、種々不都合をきたし、不愉快な経験を重ねてきた。

(四)  なお、申立人の夫の氏名「ベッカー・エルヴィン・ハンス」の中で、子に承継される部分は「ベッカー」である。

二  昭和六〇年一月一日施行の国籍法及び戸籍法の一部を改正する法律(昭和五九年法律第四五号)による改正戸籍法一〇七条二項及び改正法附則一一条によると外国人と婚姻した日本人は、婚姻成立後六箇月以内であれば、届出のみで外国人配偶者の称している氏に変更することができることとされ、経過措置として昭和五九年七月二日以降に外国人と婚姻した者も、昭和六〇年一月一日以降同年六月末日まで上記届出のみで氏変更をなし得ることとされた。

上記改正法の趣旨は、外国人配偶者と婚姻した者に対しても、夫婦同氏の原則による日本人同士の婚姻に可及的に近づけることにより、社会生活上の不都合をできる限り除去しようという意図によるものと解されるが、申立人の婚姻の時期が経過措置の適用を受け得る時期よりも約二年七箇月前であつて、右期間中も通称として夫の氏である「ベッカー」を使用してきたことを含め、「松井」姓が婚姻後の氏として社会的にまだ定着していないと認められること、申立人と同一戸籍の者が存しないこと、上記一認定の申立人の生活状況からみて氏を変更しないことによる不都合、不便を生ずることが今後とも予測されることなどに、上記改正法の趣旨を併わせ考えると、本件申立については、戸籍法一〇七条一項の「やむを得ない事由」に該当する事由ありと認めるのが相当である。

三  よつて、当裁判所は、本件申立てを相当と認め、戸籍法一〇七条一項、一一九条により、主文のとおり審判する。

(家事審判官 柄夛貞介)

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